ちょっと調べてみたのでメモしておく。
きっかけは商事法務のメルマガで見つけた次のリリース。
流会ということ自体に驚いたのだが*1、個人的に気になったのはそこではなく、むしろ発出名義。「代表取締役(権利義務者)」などとあるのだが、権利義務者なの?というところ。取締役の任期は定時株主総会終結時までだろうから*2、流会では総会が終結したことにはならないはずで、総会が終結していないのであれば、取締役は退任したことにはならず、したがって、退任して員数を欠く場合に至ったときになる権利義務者にはなるということはないのではないか、結局代表取締役名義で良かったのではないかという疑問。
TL上を見ると、同じような疑問を抱かれた方がいて、その方がやり取りされている中で、広島高決昭和38年5月18日(下民集11.2329)が示されていた。
気になったので判例秘書で広島高裁の同日付の判断を探すと、広島高等裁判所岡山支部決定/昭和34年(ラ)第28号(下級裁判所民事裁判例集11巻10号2329頁)が出てくる。ざっと見る限りは次の部分が関係すると思われる。
定時総会とは計算書類承認のため決算期ごとに招集される株主総会をいうものである。しかして所定の時期に遅れて招集されてもその総会で計算書類の承認が議題の一とされておればそれが定時総会であるとともに、それはあくまで承認のためそれを議案として招集される総会であるから、たまたま何らかの理由で承認の決議がなされずに終つたとしても、それは定時総会たるの性質を変ずるものではなく矢張り定時総会として終結したものというべきである。
こういう理解を前提にすれば、前記の記載も理解可能なところではある。
他方で、学説上そういう話は議論されていないのはかと思って、手元の田中会社法をめくっても、探し方が悪いのか関係する記載は見つからなかった。legal libraryで探すと、大隅 健一郎,今井 宏/著『会社法論 中巻 第3版』(有斐閣、1992年)163頁に次のような記載があった。古典というべき本書に書かれているということは相応の説得力があるような気がする。
また、任期中の最終の決算期に関する定時総会が定款所定の期間内(決算期後三月内〔商二二四ノ三IIIII〕)に開かれなかった場合にも、任期を限定する法の趣旨から見て、任期はその定款所定の期間を超えては伸長されないものと解すべきであろう(したがって、その期間の末日をもって任期終了となる)。
それとは別に、legal libraryで見たところ、実務書では、上田 純子 編著 植松 勉 編著 松嶋 隆弘 編著『少数株主権等の理論と実務 [勁草法律実務シリーズ]』(勁草書房、2019年)24頁に次のような記載があった*3。
定款で定めた一定の時期に定時株主総会が招集されない場合、その一定の時期の経過とともに役員等の任期は満了すると解される。さもなくば、取締役は定時株主総会を招集しないことで、任期の満了を阻止し得ることとなる。
なぜそういう結論になるのか、という点について、「さもなくば」以下での想定される弊害というか濫用の危険は、理由づけとしては個人的には納得できるところ。あまり考えたことがなかったが。また、この記載の脚注40で、
東京高決昭和60年1月25日判時1147号145頁、横浜地決昭和31年8月8日下民7巻8号2133頁参照。
とあり、前者を見ると次のような判断が示されている。
しかしながら、前記商法の規定及び定款の定めは、定款所定の時期に定時株主総会が招集され、終結されるという通常の事態を予定したものであつて、右籾定のように定時株主総会において実質的決議がされず、総会を継続することにより、本来ならば当然到来すべき取締役の任期が際限なく伸長することを無条件に是認するものとは解しがたいものという、きであり、この見地力らすれは、相手方椿の取締役の任期は、定款の定めによる相手方会社の昭和五九年における定時株主総会の招集時期である同年六月をはるかに経過し、しかも前記一一月一九日の株主総会も後会の期日を定めることなく事実上続行され、構成株主の持株関係から、定時総会の付議事項につき実質的決議に到達しうる見通しのたたないまま、いたずらに紛糾を続けているものと記録上うかがわれる現段階においては、あたかも株主総会の招集のないまま右六月を経過したような場合と同様に、もはや満了したものとするを妨げない。
後者では次のような判断が示されている。
そこで被申請会社の役員の任期について考えて見ると、成立に争のない疏甲第四号証によれば被申請会社の定款には取締役及び監査役の任期が営業年度の中途において満了したときはその任斯中の最終の夫算期に関すー定時練会終了まで任期を伸長しうる旨の規定及び被申請会社の決算期は毎年三月三一日に終る旨の規定があることが認められる。而して本件については任期中の最終の決算期とは取締役に付ては昭和三一年三月三一日、監査役については昭和三○年三月三一日であると解すべきところ、右各決算期に関する定時総会が未だ終了していないことは当事者間に争いがないので、一応右役員等の任期は満了していないとも考えられる。しかしながら右定款の規定によれば定時総会は毎年決算期後六○日以内即ち毎年五月三○日までにこれを招集することを要すると定められているのであつて、これを徒過して定時総会が開催されない場合、何時までも右役員等の任期が伸長されるものとすれば、法律を以て株式会社の取締役、監査役の任期を制限した趣旨は全うせられないものというべきであるから、商法第二五六条第三項の定時総会の終結まで任期が伸長せられるという意味は通常の場合を予想して所定の時期に招集せられる定時総会の終了までと解すべきである。本件について定時総会が所定の時期に招集せられなかつたこと七ついて然るべき事情があつたとしても、右事情は代表取締役(職務代行者)の商法第二三四条による総会招集義務違反の責任にっいてのみ考慮せらるべきであつて、取締役、監査役の任期はこれによつて伸長せられないものと解すべきである。
30分ぐらいちょっと調べただけだが、なるほどなあと思う。弊害や濫用の危険を考えると、特に確信犯で総会を意図的に招集しないような事例を考えると、こういう風に考えるしかないと納得する。もともとのリリースもこうやってみると、きちんと考えた上でああいう形にしたものと思われる。
網羅的なリサーチではなく、行き当たりばったりの探し物でしかないものの*4、正直考えたこともなかった話なので、自分の備忘のためにもメモしておく*5。
これまでのところ、幸か不幸か、この辺りが問題になる事案に接した経験はないが、仮に自分がこういう事態に巻き込まれたら、パニックになって、自分一人だと何らかの判断ミスで間違いを犯してしまいかねないと懸念するし*6、きっと胃の痛い思いをすることになるんだろうなと思う。まあ、通常は、当日は総会指導として外部の事務所の先生にサポートをしてもらうだろうから、ミスは発現せずに終わるかもしれないし、胃が痛い思いをするのは自分一人ではないのかもしれないが。いずれにしても、こういう事態が起きたときに、どういう対応をすべきか、することになるのか、ということを理解するうえで、参考になる事例とみてよいのではないかと思う。代表取締役社長代表取締役社長(権義務者) (権利
*1:その場にいたと思われる方のレポートも、内容の確認のしようはないものの、興味深い。
*2:定款を見ると、「取締役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」とあり(22条)、今回の総会の招集通知を見ると、参考書類の取締役選任議案についての記載のところに「取締役全員(4名)は、本定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。」とある。
*3:脚注はこちらで除いた。
*4:どこかできちんとまとめられたものがあれば見ておきたいのだが...。
*5:up後に何回か加筆修正をした。
*6:総会がらみで過去の勤務先で、判断をミスってやらかしかけたことがあって、その際も念のために顧問弁護士の先生に確認して、指摘されて、結果的に事なきを得たことがある(涙目)