遅まきながら一通り目を通したので感想をメモ。M&Aの契約書に関わることがあるのであれば座右にあるべき一冊と感じた。
MHMのM&Aを専門にされている先生方が、M&Aの契約書について、モデル条項に基づき、各条項の売り手側・買い手側にとっての意味や機能、そのバリエーションなどについて解説した本、というところか。
第1部で手短に総論的な話の説明があり、第2部で株式譲渡契約について、逐条でモデル契約の解説がなされる。場合によっては、モデル契約で使用されている条項のバリエーションも示される。第3部では事業譲渡契約について第2部との差分について説明される。巻末に株式譲渡契約書について、売主視点、買主視点双方で作られた案文と事業譲渡契約書のドラフトが付されている。
M&Aの分野は専門用語の多い分野でもあるが、初出の時点で一定の説明がなされているので、M&A契約に仮に馴染みがない、または、少ないとしてもそれほど読むのが負担になることはないのではなかろうか。また、株式譲渡契約書については、同じ対象会社に対して視点の違いによってどういう書き方の違いがなされているか比較可能な形で書かれているので、双方の条文を比較しつつ、解説を読めば、解説での内容が実際のドラフトにどのような形で反映されるのか、がより理解し易いのではなかろうか。
M&Aの契約というと、NOTの先生方の「M&Aの契約実務(第2版)」がある。NOT本でも株式譲渡契約についての解説はあるが、本書とは異なり、最終契約(DAなどということもあるが)に至る過程で取り交わす契約(NDAやLOI)についての解説がある等、取り扱う範囲が異なるので、両方とも目を通して、重なる部分は比較して読むとより理解が深まるのかもしれない。NOT本よりも本書が良いと感じるのは、契約全体のサンプルが、株式譲渡契約について複数掲載され、株式譲渡契約に加えて事業譲渡契約についての解説や契約全体のサンプルがある点と感じる。
惜しむらくは、(NOT本もそうだが)2018年と出てから時間がそれなりに立っているので、その間の実務の変化、例えば債権法改正後の判例の蓄積や会社法実務の蓄積(M&Aでいえば例の経産省の指針や判例・裁判例の蓄積)を踏まえた改訂版がそろそろほしいところだろう。いずれにしてもM&A契約に関わるのであれば、座右にあるべき一冊と考える。
