M&A契約研究 -- 理論・実証研究とモデル契約条項 / 藤田 友敬 (著, 編集)

 

遅まきながら一通り目を通したので感想をメモ。本エントリ時点では内容的に既に古くなっていると思われる部分もあるかもしれないが、この分野に関心があれば目を通しておいてよい一冊。

 

「はしがき」の記載が、本書がどういう本かを端的に示していると思うので引用する。

本書は、M&A契約に詳しい実務家と研究者による討論を通じて、現実にわが国で使われているM&A契約に含まれる諸条項の意味と経済的機能を明らかにし、M&A契約のあるべき姿を探求する試みである。

巻末記載のモデル条項(誰が作ったのか、明言はないようだけど著者たちなのだろう)も素材としながら(一定の範囲で条項のバリエーションが示されているのも有益だろう。)、その章立てに沿う形で、M&A契約の諸条項の意味と経済的機能を、ローエコなどの見地から分析したもの、というところだろうか。海外の話は統計データなども紐解きつつも、分析が議論されている。座談会形式(?)なので、文章は、比較的読みやすい。

 

幸か不幸か、こちらも、これまでの勤務先で一定の件数のM&A案件には関わることができ、相応の回数契約書及びそのドラフトに接することができているので、議論にはある程度ついていけた気がするが(あくまでこちらの主観での話だが。)、知らないことも多く、勉強になることも多いと感じた。ローエコの視点からの分析の色合いが濃いが、ローエコ的な分析についての好みはさておき、そういう視点からはこういう見方ができるということは知っておいて損はないように思う。英米の実務から直接持ってきたような実務もあって、日本法・日本での実務と整合していないところも思った以上にあると感じた点も印象深かった。

 

ただ、当然のことながら、個々のM&A案件の文脈とは切り離されて契約書の条項について議論している上に、学者と「中の人」にアドバイスをする外の人の議論なので、「中の人」視点で見ると、一定の限界があるように思えるかもしれない。科学で言うところの理想気体のようなものだと思えばよいのかもしれない。また、債権法改正施行前の議論をまとめたものなので、債権法改正の影響や、直近の様々なM&Aについての(裁)判例や指針などは、当然のことではあるが、踏まえられていない。そこで、できれば、どこかのタイミングで、同じメンバーで議論のアップデートをしてもらえると良いのではないかと思う。契約書の条項単位で、ローエコ視点に振り切った感のある分析は、他では見ないので。

 

いずれにしても、この分野の業務に従事するのであれば、一度は目を通しておいて損はないと思う。