何のことやら。杞憂に終わってくれることを願いつつ、雑駁なメモ。
有能な弁護士さんが、企業内で法務の最高責任者に就かれて、就任早々矢継ぎ早に種々の改革を実施し、法務部門の業務の「仕分け」をして、他部門に引き取ってもらうべき業務を引き取ってもらい、法務部門の「働き方改革」に成功したとの報に接した*1。
一見すると、すごい成果にも見える。瞬間最大風速的にはそうだろう。
しかし、こちらの目には別の見え方をしており、むしろ懸念を覚えた。以下若干のメモをしてみる。あくまでも実情に接していない段階での懸念に過ぎず、事実誤認である可能性があるし、むしろ杞憂であることを強く願うのだが、以下で書くような事態は、別のところで接したことがあり*2、ある種よくあることにも見える。そうしたことがかの会社で将来生じることを懸念する次第である。
地位(社内的な立場や弁護士資格)と論理で「改革」を上から進めるのは、相対的には容易という気もする。特に、その上(煎じ詰めると社長になろうか)からの支持があるのであれば。それに加えて能力と気力があればなおのこと。
ただし、そのことは、下から反発を受けないことを保証しない。論理的にいくら正しかろうと、感情面で納得できなければ反発は受ける。それぞれの部署はそれぞれの専門性があり、そうした立場からものをいうのを無視しているかのように受け取られてしまえば*3、そういう反応を招くのは避けられないだろうし、入ってからの日数が短ければ、正しいことを言っていたとしても、「社内のこともわからずに何をいうのか」と思う層が出るのはほぼ必定だろう*4。
こうした反発は、反発する側の処世術として明示的になされないことが通常で、辞表をたたきつけるようなわかりやすい「勇者」はまだ多くないだろう*5。そして、上に政策あれば下に対策あり、というように、現場レベルで見えづらい形での反発が生じる可能性がある。情報を共有しない、調整が必要な話は、調整が終わって今更再調整が不可能になってからしか共有しない、などがそうした反発の典型であろう。この種の事態が生じてしまうと、法務組織として対応することになるが、組織内でも内心反発していると対応の実効性が削がれるのは言うまでもない。
また、法務がすべきではない業務を「仕分け」して、他部署に戻したというのも、そもそもなぜ法務が引き取っていたか、の理由次第では、反発を招くのみならず、別の弊害を生じる危険がある。戻した先の部署側が業務処理能力の面でパンクしていれば、業務が停滞しかねないし、能力不足であれば、ミスが生じる危険もある。法務がすべき業務かという「仕分け」とともに、戻して大丈夫かというある種のFSが必要になる。業務自体をなくすのであれば、なくして大丈夫かという観点から同種の検討が必要になる。
もう一つ考えておくべきは、この種の反発は、時間的には長く続くことだろう。「改革者」が去った後でも長く祟る、ということもあり得る。前の「改革者」への反発が、次に来た「改革者」への桎梏となるというのも、まれではないと感じる。
…以上つらつら書いたことがこちらの杞憂であることを願うばかりである。
*1:どなたかにご迷惑をかけるのを避ける趣旨で、原文からは表現を修正しており、原文へのリンクなどはしないでおく。
*2:詳細はさすがに書けないが。
*3:ここは相手基準なので、当人の主観は一切問題にならないことは留意が必要だろう。何よりもそういう印象を持たれないよう、気持ちよく働いてもらえるよう、相手の能力などにかかわらず、相応の敬意を払うなどの配慮が必要であろう。自分の立場が上であればなおのこと。
*4:外資から来た外国資格持ちがJTCに入ってこの種の反発を受けるというのはある意味で典型的なパターンかもしれない。
*5:表向き別の理由で退職するというほうがむしろ多いのではないか。いったん気持ちが切れれば、ことさらに波風を立てる必要はなく、むしろいかに円滑に離脱するかが重要になるのだから。