表現の自由 「政治的中立性」を問う (岩波新書 新赤版 2023) / 市川 正人 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。相性の合う合わないがありそうなので、合いそうならば目をとおしておいて損はなさそうな気がした。

「まえがき」によれば、

本書は、「政治的中立性」を理由に表現の自由を制限することの危険性、問題性を明らかにしようとするものである。

とある。一通り目を通した後だと、確かにそういう意図で書かれた本だったと感じる。

 

重要なのは「政治的中立性」と、「」がついているということであろう。つまり、ここでいう「政治的中立性」というのは、誰からどう見ても、政治的中立であるといえるものではなく、特定の誰かからみたそれ、と称するものでしかなく、その他の視点からすれば、中立どころか「偏向」というべきものかもしれない、ということと理解した。そもそも、政治的中立性、ということ自体多義的なので、慎重に考えなければ(その前提として、十全な思考力と注意力が必要と思われるが)、そうした事態が生じても不思議はないのかもしれない。端的にいえば、時の政権、または、そこに(意識的か無意識かはさておき)阿る立場からみたそれが、事実上強要されているようにも見える現状への問題意識、が、著者をして本書を書かせるに至らしめたものなのだろう。裁判例などについては、認識している・していたものもあれば、そうでないものもあり、どういう事例があるかを見るだけでも個人的には有用と感じた。憲法学者が一般向けに書いた本としては、判例*1の紹介でも著者の主観が前面に出ている部分が多いと感じた。この点は好みの分かれそうなところかもしれない。個人的には、著者と見方に近いためか、特に違和感は感じなかった。

 

一義的な定義のできない怪しげな概念が跳梁跋扈して、言うべきことや言いたいことが思うように言えなくなるというのは、「いつか来た道」という感じもする。そういう事態にならないようにしなければいけないのではないかと思うが、それは言論空間(という言い方が適切なのかは不明だが)の構成員各員にかかっているところなのだろう。とはいえ、軽率な言論が特にネット上でまかり通っている様を見ると、正直先行きが明るいようには見えない。自分がそういうものに加担しないようせいぜい心がけるくらいしかできることはないのかもしれない。

*1:その中には著者が何らかの形で関係のあるものも含まれているとのこと。