一通り目を通したので感想をメモ。民法の「はじめの一冊」としては選択肢の一つになるのだろう。
奥付を見ると初版が出たのが昭和61年、こちらが高校入学の年である。こちらが米倉先生の講義に履修登録をした(授業に出たとは言えない)頃には既に初版があったことになる。それが令和になってさらに改訂(部分改訂だろうが)されるというのが凄い。米倉先生が1959年に東大法学部卒とあるので、今御年は90歳前後ということになろうか。そのご高齢で、改訂版とはいえ、新著を出されるのが凄い、ということで購入して、通勤電車の中などで目を通してみた。
本書は、まずは正常に締結された契約が正常に義務の履行を終えるまでの過程で出てくる民法の財産法の規定について第1章で、第2章ではその取引過程で何らかの問題が生じた際に出てくるであろう規定について、それぞれ解説し、第3章でその他残りの規定について解説するという形になっている。
全体で230頁余で財産法の全体を解説するという形なので、解説している内容も入門時点で理解しているべきと判断された範囲に絞られていて、発展的な内容や議論が煮詰まっていないところについては、あえて踏み込まないという割り切りがなされている。財産法の要所の基本的な部分の理解を助けるという意味では、適切な対応なのだろうと思う。学習を進めるうえでの心構え的な部分を説くあたりも含めて、教育的な配慮が随所に見られると感じる。教育者としての著者の経験のなせる技なのだろう。
内容面でも、穏当な内容ばかりとは限らず、民法750条が任意規定だという、ある種過激ともとれる内容等も盛り込んでいるうえ*1、必要と判断すれば、比較的高度な内容にも踏み込んでいるので*2、見た目ほどやさしい本ではない、というのがこちらの印象。入門段階での内容の平易さをより徹底した、他に比較しうる本もあるので*3、この本でなければならないということではないだろう。解説で古典を引き合いに出しているあたりも、今風の書籍とは一線を画してる感がある。
ともあれ、前述の基本的な骨格が、入門時点で有用なのは事実なので、今なお、民法を学び始める際の「最初の一冊」としては、引き続き有用であることは確かだと思う。