一通り目を通したので感想をメモ。所有権について考える上では目を通しておくべき一冊ではなかろうか。
大村先生の企画で、高校生向けに民法学者が民法について説明をし、質疑応答もして、その様子も収録するというこのシリーズ*1。これまでは1950年前後生まれの世代の学者(こちらからすれば、こちらが学部生だった頃に既に教授だった方々という感じ)が登板されていたのが、1960年前後生まれ(大村先生の世代)の先生が登板され、その最初が道垣内先生ということになる。
道垣内先生というと、専修大に移られたときの次のご発言が想起されるところである*2。
『信託法』を書いてから,少し気が抜けてしまいましたが,何とか復活し,次は物権法の教科書を書きたいと思っています。
ただし,書くのであれば,シェアエコノミー,愛好利益,書籍のデータ化といった問題や,ハードウェアの所有よりもソフトウェアのライセンスが重要となる,といった事象をどのように物権法の中に位置づけるかをはっきりさせたいと思っています。関係ない,というのも,はっきりさせるための1つの選択肢ですが,どうなるかはわかりません。
物権法の教科書の準備過程にあるはずの著者が、上記の「ただし」以下で書かれているあたりをどう説明するのか、というあたりが気になったこともあって、購入してみた。
100頁弱のところに、古典的な説明や上記の「ただし」以下で出てくる極めて現代的な現象まで、コンパクトに論を進められ、しかも高校生(ただし、学校名の明示はなものの、質疑内容からしても相当な優秀な高校生であることは間違いない)相手ということもあって、高度な内容も平易な形にまとめられていて、さらに、語り口も洒脱であって(これはこの本に限ったことではない)、これぞ碩学という感じの内容で*3、一気に読むことができた。
もっとも一気に読めるというのと内容が消化できるというのとは別の話で、こちらの勉強不足もあって、どこまで消化できたかは心もとない。デジタル化が進む中で、所有権概念の不明確化(電子書籍、仮想通貨、不動産の証券化、ソフトウエアが取り上げられている)、とでもいうべき現象がある中で、所有権をどう考えていくべきかというのはそう簡単な話ではない。この辺りを考えていくうえで*4、考える糧となる内容を多分に含んでいると感じた。