今更かもしれないが、一通り目を通したので感想をメモ。この分野に多少なりとも関わりがあるのであれば、目を通しておいて損のない一冊。
業界関係者であれば誰も第一人者(の一人)と認めるであろう著者が、豊富な経験と知識に基づき、一般向けに敵対的買収とアクティビストについて解説したもの*1。経験の豊富さについては、関わっておられる案件数などから明らか*2、といってよいのではないかと思うけど、日本における敵対的買収の歴史(思っていたよりもずっと前からあるのに驚いた。)や比較法についての説明もあり、知識の豊富さにも驚いた。
敵対的買収にも良いものと悪いものがあるが、良い・悪いを何をもって決めるのかについては、諸々の要素次第で、流動的なものであるという指摘は、著者の立場からすればそうなるだろうな*3、というところだろう。個人的には、単なるマネーゲームにも見え、対象会社をただの道具にしか見ていないのではないかとすら思えてしまい、そういうのが適切とは思い難く感じているし、そういう目にあう危険まで考えると、そもそも上場企業であり続けることの費用対効果が合わなくなっているのではないか、それは、個社の問題というよりも市場側の問題ではないのかと、夙に感じるところ。
また、「わが国の会社法制は、欧米と比較して、相対的に株主総会の権限が強く、少数株主権の権利も強いため、株式持ち合いが崩れ、機関投資家が株主利益の最大化を基準として議決権を行使する傾向が強まっている現状を前提にすると、潜在的には株主アクティビズムがさらに活性化する余地が大きいといえる。」としている点や、こうした点への対応として、証券法制の大幅な改正があり得る旨を指摘している点も興味深かった。この辺りは、あと10年くらい後で答え合わせができるのかもしれない。その辺りで本書の改訂版が出されることも期待したい。