消費者法 (有斐閣ストゥディア) / 宮下 修一 (著), 寺川 永 (著), 松田 貴文 (著), 牧 佐智代 (著), カライスコス アントニオス (著)

一通り目を通したので感想をメモ。

 

TL上で評判が高かったので買ってみた。ここまでB2Cの会社にいたことがなく、いたことがある企業はすべてB2Bのビジネスの会社なので、どうしてもこの分野は手薄なままである。かつて、師匠とあおぐろじゃあ先生から消費者法は勉強すべしと言われたこともあり、気になってはいる。他方で、ろじゃあ師匠の師匠である河上先生の薄い本(?)は濃厚過ぎて、買ったものの積読のままになっている。本書は入門的なストゥディアシリーズの一冊なので、何とか読み通せるのではないかとも思ったのだった。

 

本書は大きく3編に分かれていて、第1編は消費者法の世界の全体像を示し、第2編で消費者法で中心的を占めていると思われる消費者契約法を中心に解説を行い、第3編で特徴的な取引*1における消費者保護についての解説をしている。制度をめぐる歴史を振り返りつつ、第2編・第3編では事例を用いて解説を行い、その際には民法との差異についての説明を厚めにすることで、民法との架橋に注意している印象。各章ごとに、「その先」への案内を示す読書案内がついているのも入門書としては適切と考える。

 

…というようなことは、既に本書の評価が(少なくともこちらの見る限りでは)高いことからすれば、他のところでも言われるのではないかと思う。

 

しかしながら、上記の点から、よく考えられた本とは思うものの*2、若干の違和感が残ったのも事実。気になったのは、煎じ詰めると、何だか民法に寄り過ぎていないか?ということに尽きる*3

 

消費者保護については、民事的な保護が重要なことは確かだけど、基本的には民事的な保護は、原則として、事後的・個別的救済であり、再発防止という意味では、寧ろ公法的な規制によるところが相応にあるはず。その辺りについての言及が、民事的な救済についての厚さに比して薄くないか、という点が気になった*4。これは現実に目立つ形で機能しているのが、民事的救済であり、公法的な規制が、民事レベルで問題になってから(消費者運動などで世間の注目を集めてから)後になるという歴史的な経緯もあるのかもしれないが、消費者保護のための制度そのものの理解という意味では、歴史的経緯を踏まえすぎて理解を歪にしないか、入門段階で、変にバイアスをかける結果になっていないか、とも感じた*5

そういう点から考えれば、そもそも著者が民法に軸足を置いた研究者4名というのも適切だったのかという疑問も出てくる。公法系に軸足を置いた研究者の方々も参加して、そういう視点からのインプットも踏まえた本にすべきだったのではないかという気がした。

 

*1:結構広めに取引を拾っている印象がある

*2:特に、成人したてで、一消費者として、社会で生きていこうとする方々への消費者教育の本としては良い本なのではないかと感じる。

*3:この辺りは、本書購入直後に書影をTLに挙げたところ、DMでコメントをいただいた某氏からの示唆によるところがあることもメモしておく。もちろん、本エントリの文責はすべてこちらにあることはいうまでもない。

*4:こうした点は、特に、企業法務部門の人間が本書を読む場合には、気にした方がよいのではないかと思う。消費者法は、消費者だけのものではなく、消費者と取引をする側にとっても、消費者取引を適正に行ううえで、理解すべきものであると考える(こちらがそう思うのはろじゃあ師匠の影響だろう。)。

*5:そういう意味では、読書案内についても、民事系に「寄っている」ような印象が残った。