聞いてみないとわからない話ー売買契約における所有権留保についてー

例によってTLを見ていて思いついたことについての雑駁なメモ*1

 

大要、契約書の審査に際して、当該文言をめぐる具体的な状況を正確に把握しないと、審査内容が不適切なものとなる、という指摘に先日接した。確かに、その通りとは思う。そうは言っても、このような抽象的な指摘は、その具体的に意味する内容が一切伝わらないということは考えにくい反面で、話者の意図通りに受け手に伝わっている保証はないと感じる。そこでは、何らかの意思疎通の齟齬が生じているのではないかと思う。その齟齬について、話者の意図をくみ取れない側を論難しても仕方がないと思うことも多い。特にこちらが相手を指導する立場であれば。受け手に伝わるように伝えるためには具体的な事例を示す必要があるのではないか。

 

とりあえず、こちらの立場に即して、メーカーが自社製品を販売する際の売買契約における契約文言で考えてみる。わかり易そうな例として、思いつくのは次のような文言。説明のために簡略化すると次のようなもの。

「本件商品の所有権は、売買代金完済の時点で注文者に移転する。」

 

この種の文言の問題点について、何人かの方がコメントされているのにも接したこともあり、色々考えてみた。


上記の文言は、債権保全目的の所有権留保を意図したものと理解できるように思う。とはいうものの、ここでは、当該商品の所有権を留保することが、担保として機能する、つまり、当該商品を買手以外の人間に転売可能なことが、前提となっているものと思われる。しかしながら、当該商品が特注品とかで転売しようにも他に買う人がいない*2と思われるときや、劣化が早い商品(生鮮食品とが典型か)で、転売しようと思っても、時間的に難しい時には、そうした前提は成り立たない。そうなると、留保する意味がないという結果になりかねない。

 

それとは別に、既に指摘されているように、相手に対する与信に問題がない場合(反対取引があって相殺可能なケースも含む)には、担保として押さえておく必要もないのではなかという議論もあり得る。

 

また、これも既に指摘があるが、所有権留保で使用しづらくするよりも、相手に当該商品を使ってもらって、使用による収益により代金回収を容易にする考え方もあり得るかもしれない。保管のために費用がかかるとか、場所を食うようなケースも、留保することに意味があるのかについて疑義を投げかける場合があるかもしれない。

 

以上のようなことを考えると、所有権移転時期についての契約文言だけ見ていても駄目で、取り扱う商品の性質も含めた取引実態を踏まえる必要があるということになる。

 

…このくらい説明しないと、理解できないのではなかろうか。

*1:up後にタイトルも含め加筆した。

*2:有価物として引き取ってもらえても、想定した価値よりも相当低い金額でしか引き取ってもらえないという場合も同様に考えることになろう。