一通り目を通したので感想をメモしてみる。
松本さんというと、作詞家の巨匠ということには争いはないし*1、小さいころから氏の手による曲にはいろいろと接してきた。こちらが音楽を意識的に聴き始めたころのもので言えば、松田聖子さんの「風立ちぬ」とか、寺尾聰さんの「ルビーの指輪」というあたりがすぐに思いつくし、その他のものも多く、挙げればきりがない。本書は、その松本さんが言葉との付き合い方について語ったものと、それを記録した方が松本さんについて書いた文章とが一緒にした形になっている。
松本さんに作詞をするうえでのテクニックがあるなら、それはそれで興味深いと思うけど、「テクニックに頼った瞬間言葉は浅くなる」、寧ろそういうものを否定するところから話が始まる。松本さんが話している映像を見た記憶は少ないけれど、前半の部分は、映像の記憶そのままの口調で文字になっているので、ご本人の声が聞こえるように感じながら目を通した。
語られている内容は、実際の歌詞*2も引用されているので、何が語られているかという点では、とても分かりやすく感じる。その反面で、語られている中身については、奥が深いというのか、諸々の移り変わり・流行り廃りも含めて頭に入れたうえで、自分の感覚や思考を研ぎ澄ませ続けないと辿り着けない境地、という印象で、なるほど、と思ってみたとしても、どうやって語られている内容の実践が継続できるのか、という感じもした。たぶん意識せずにできる人とそうでない人がいて、僕は後者でしかないということなのかもしれない。おそらく言葉そのものに対する感受性の大きさが鍵なのかもしれない。そういう部分でこちらが粗雑なのは間違いないし、いずれにしても、今から作詞家になることはないはずだから特にどうというものでもないのだけど。
企業内外問わず法務も、言葉を使って何かをする職業・職能ではあると思うのだけど、作詞家の方々とは、言葉に対する接し方などには随分と大きな開きがあると思うし、その差異は単純に面白いなと思った。