ジュリスト2021年11月号

例によって呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 海外法律情報。
    韓国の公職者の利益相反防止に関する法整備は、国会議員に対する部分だけでも本邦でも導入してはどうかと感じた。
    ロシアの公務員の二重国籍の禁止に関する法改正は、外国銀行での口座の保有も禁止というのが興味深い。某P大統領とかどうしているのだろう。きっと親族なり関係企業経由で口座を有するのだろうけど。
  • 判例速報。
    株主総会の決議は出席株主全員の同意を要する」旨の定款の定めの有効性の事件は、定款自治の限界をどこに認めるかという解釈論が興味深いし、弥永先生の判旨(江頭説に従ったものと思われる)への批判も個人的には納得するところ。
    事故の約2年後に発病した適応障害に対する労災保険給付不支給処分の適法性、については、事故から時間が空いて発症した障害について、どういう基準で判断するのは、記事に記載されている内容からは見えづらいと感じた。結論は妥当な気がした。
    サービス販売の抱き合わせ・優越的地位濫用該当性が争われた事例については、双方の近接性tとそれ故の両者における判断の整合性についての疑問点の指摘が興味深い。示唆されているように今後議論がなされるべき論点なのだろうと思う。
    複数の者が作成に関与した著作物の著作者の件は、著作者名の表示による著作者性の推定を覆しつつ黙示の利用許諾を認めた点で背景事情も含めてみると落ち着きどころが良い感じがした。
    滞納処分の基礎となる租税の遡及的消滅の場合の過納金の計算方法については、別に未納金がある以上は、過誤納金がでても未納金にすべきというのは、徴税コストの削減という観点からも正当化可能なのではないかと感じた。
  • 次いで判例研究へ。
    経済法の特許権消滅後のライセンス料請求については、独禁法の観点からの検討がない(と思われる)判旨を、独禁法の観点から、ガイドラインなどの変遷も踏まえて検討しており、その観点からの検討不足を示唆しているように見えたのが興味深かった。
    株主総会決議の瑕疵と代表取締役、顧問弁護士の不法行為責任は、家族経営企業でありそうな事案で、某教室の大河ドラマ演習(謎)のネタになるのではと思ってしまった。判旨で総会決議存在を認めた理由についての裁判例を踏まえた評者の分析が興味深かった。
    特例有限会社の取締役解任にかかる賠償請求が否定された事例は、H17改正前商法とか、正直全く知らなかったので*1、解釈論も含めた当時の規律の仕方に驚いた。
    銀行持株会社取締役のグループ内部統制システムに関する義務の件は、銀行持株会社の特殊性の部分が今一つはっきりしない感じで何だかよくわからないという印象が残った。改正前銀行法の解釈問題故のことのようなので、評者のせいではないが。
    労働審判における郊外禁止条項の違法性と国家賠償責任の件は、評者が評者ということもあり、労働審判の実態を踏まえた判旨批判が説得的に見えた。原告代理人の氏名を殊更に表示しているのは、原告代理人の功績を称える趣旨だろうか。賞賛するにやぶさかではないが、やや気になった。
    無期転換した労働者に対する正社員就業規則の適用の有無の件は、最高裁まで行った事件の後日談なわけで、最高裁までもめても紛争の解決に至るとは限らないというか、ケチがつき始めると際限ないという気がした。無期転換したからと言って直ちに正社員と同じになるとは限らないというところは納得だけど。
    所属税基本通達59-6に明記されていない財産評価基本通達の読み替え、の件は、頭がついていかず内容について何かを述べることもできないが、一点気になったのは、評者のこの判決に対する賛否とかが明示されていない点。評釈でそれを明示していない(ように見える)のはアリなのかが気になった。
    米国前訴に対抗する消極的確認訴訟の国際裁判管轄を否定した事例については、既に確定した米国訴訟の蒸し返しが訴えの本質であるならば、却下ではなく請求棄却にして更なる蒸し返しを防ぐというべき、という評釈の指摘に賛成。判旨でも蒸し返しによる相手方当事者の負担を重視しているように見えるが、そうであれば余計にそうすべきと感じた。

  • 時の判例
    原爆症の経過観察の事件は、考慮要素並べ立てて総合考慮というのは、規範として不明確だよなと改めて感じた。そうとしか言いようがない部分があるだろうとは思うけど。
    制限超過利息(以下略)についてのものは、過払い金がらみのもので、被害者への弁済原資を得ようとした破産管財人には酷な結果になったような気もするが、過年度の修正とかがもたらす影響を考えるとやむなしというところなのかもしれない。
    有価証券届出書(以下略)の件は要するにF*Iの件で、主幹事会社が株主から損害賠償されていたのは知らなかったが、本件の特殊事情も踏まえれば納得の判旨。ただ本件はかなり詳細な内部告発があったのを主幹事会社がスルーしたという事情もあり、判旨でその点の注意喚起がなされているのは当然という気がする。
    社債と利息制限法1条の適用の有無の件は、利息制限法の経済的弱者保護という趣旨からすれば適用否定というのは理解し易い気がした。解説にあるように、債務者に法人なりさせて貸し付けて暴利を取るようなケースも想定できるが、それには例外処理として対応できる余地を残しているところも重要と感じた。
    刑事の件は、高裁判決における、地裁判決の批判の仕方が適切でないという話だけど、被害者に引き起こさせようとした事故の相手方に対する被告人の殺意についての認定方法を解説部分で検討しているところが興味深かった。

  • 続いて知財法務の連載。結構長丁場の連載らしい。初回は奥邨先生が著作権法の権利制限規定に関してのもの。いかにもありそうな今どきの設例に対して、条文解釈を丁寧に行って分析したうえ、それでも明快な答えがでないところについては、事業部と協議という形にしているあたりは、流石、というところ。また、提示されていたのは、著作権法についての問いではあるものの、その他に答えるべき問いに答えていないのではないかという疑義を最後に示しているあたりも、実務ではよくある話なので、全体で見ると、実務での法律相談への対応の仕方の好例を示しているといえ、法務の研修教材としてもすぐれていると感じた。
  • 新・改正会社法セミナー。
    議決権行使書面の閲覧制限の部分では、閲覧して得た情報についての守秘義務に関する会社法上の明文の規定がない点、立法で対応するのが筋だろうと感じた。また個人株主の住所の扱いは個人情報保護との関係で確かに難しい気がした。今まで意識したことがなかったけど。
    報酬規制の部分のうち、Iについては、立法過程での検討内容に議論が引きずられすぎではないかと思ったのだがどうだろうか。
    IIについては、各種インセンティブ報酬の361条1項該当性を検討する際には形式的な文言解釈でなく趣旨解釈が重視すべきと感じた。
    IIIの決議上限を超えて募集株式発行がなされた場合と無効原因については、少なくとも超えた範囲で無効にしないと上限を切った趣旨が没却されかねないと感じるが、個別具体的な状況下で何か問題が生じないのかというと、よくわからない気がした。こちらの経験不足不勉強ゆえかもしれないが。
    VIについては、改正前の解釈との整合性を保つ方法を探る感じのやり取りが、どこまで理解できたか心もとないが、興味深く感じた。役員報酬周りの話に関与した経験が希薄なのでイメージしづらいところが多いのが理解しづらい一因なのだろう。
  • 時論。最終的には立法で対応すべき話だとは思うけど、それにしても最高裁の判断は杓子定規すぎやしないかと思ったのだが...。
  • 最後に特集へ。座談会は、戦士さんが的確に表現されたような緊張感はあるが*2、グーグル日本の法務部長氏が、グーグル全体の中で実質的にどういう立ち位置かということを踏まえて読まないといけないのではないか、という点が引っ掛かった。もちろん述べているのは一個人の見解ということになるのだろうけど、その個人としての見解は、かの会社の企業集団全体の中で、どこまで何をみたうえでのものなのか、ということは重要な気がしたので*3。もっとも、上記の点を別にしても、かの会社に対する不信感が元からあるがゆえのこちらの偏見かもしれないが*4、結局グーグル日本の人は言いたいことだけを言って、肝心なところで「逃げている」のではないかと感じてしまった。あちらにはあちらのご都合があるということであれば、当局側には当局の都合があるということで締め付けていくのもアリなのではないかとも感じた。この国の存在感が長期的に低下し、かつ、回復可能性が低いであろうと見切っていたとしたら、あの手の巨大企業が、本邦を内心見下していてもおかしくないのだろう。
    ターゲティング広告の論文については、ソフトな洗脳みたいな使い方がなされる可能性まで考えると、洒落にならない話だなと思うものの、一国単位での規制は難しいし、複数国で規制について協調するのも難しいのではないかと感じる。
    アドフラウドの記事は片仮名が多くて読みづらかった。「広告掲載料が他にスチールされる」という表現は流石にどうかと思う。
    アフィリエイトの広告責任の記事では、アフィリエイト広告の表示主体をどう考えるべきかについての丁寧な検討が、興味深い。消費者庁の対応の歯切れの悪さの裏に何かがあったのかがも気になった。
    特集としては、これから先を見通す部分がどうなっていくのか、乞うご期待というところなのだろう。

*1:初職のころは契約とか訴訟の話で商法・会社法周りの話には接する機会がなかったこともあり勉強していなかった

*2:戦士さんらしい熱いエントリと感じた。かの会社に好意的な見方の背景には戦士さんが「構造的には紛れもない「プラットフォームビジネス」のど真ん中で仕事をしていたこと」があったことも作用しているのではないか。

*3:この辺りはこちらが米国企業の日本法人で働いた時に感じたことが影響しているのかもしれないが。

*4:最近は検索エンジンの動き方が不可思議なので、余計に不信感が昂じている。