「外」を意識し続ける

何だよそれ、という内容だけど呟いたことなどを基に、雑駁なメモ。

 

きっかけは、こちらの報道。企業の法務部門に身を置く者としては驚きを禁じ得なかった。気になった箇所を2つ引用しておく。

 

自動車大手「ホンダ」(東京)の男性社員(当時27歳)の自殺を巡り、同社が男性の業務用パソコンの作動時間から長時間労働による労災と疑われることを懸念し、遺族に対し、パソコンを廃棄したとする虚偽の説明を約1年続けていたことがわかった。同社は遺族に謝罪し、 隠蔽いんぺい に関与した当時の労政企画部長や法務担当者ら7人を懲戒処分にした。

隠蔽には7人が関与していた。社内調査に対し、総務部門の係長は「遺族に労災の疑いをかけられたくなく、事実と異なる回答をしてしまった」と釈明。労政企画部長や法務担当らも「『すでに遺族に回答しており、もう引き返すことは難しい』という係長の主張を追認してしまった」などと話したという。同社は16年8月、係長ら4人を降格、労政企画部長や法務担当ら3人を停職10日の懲戒処分とした。

 

この法務担当が何を考えてこの所業に至ったかは、上記の記事からは必ずしも明らかとは言い難い。しかしながら、社内というか、社内の自分及びその周辺の部署のことしか視野に入らずに、その場の「空気」に呑まれて、こうした行為に及ぶに至ったのではないかと考える。

 

こうした行為を行わないようにするためには、どうしたらよいのだろうか。既に指摘の出ているように、社内で適切に上司に伝え、組織で対応するというのも一案だろう*1。上司が駄目ならその上へ...となっていって、事と次第によっては、社外役員まで話を持っていくこともあり得るだろう。内部通報制度もこういう時には選択肢になるべきものだろう。

 

かの人が、こうした行動に安心して踏み切れるようになるには、どうすべきだったのか。おそらく、2つの意味で当人が「外」を意識し続けることが必要だったのではないかと感じる。

 

一つ目は、こうした「隠蔽」行為は、必ず露見する。露見したら、自社の「外」からの「負」のフィードバックがあって、自社に不利に作用する。だからこそ、「隠蔽」はしてはならない、止める必要がある、と考えることだったのではなかろうか。現在の状況下では、特定の行為が色々な形で他の物事とつながっていることからすれば、「隠蔽」をやり切ることは極めて難しい。どこかでつじつまが合わなくなって「隠蔽」が破綻する可能性が高い。そして、仮に「隠蔽」が露見した場合には、法律上であれ事実上であれ、様々な「負」のフィードバックが自社に返ってくる。所謂レピュテーションリスクもあるが、それだけではない。労災でもめているのであれば、ご遺族から民事訴訟の提起があることも想定すべきだろう。その際に「隠蔽」の事実が提示されれば、かなり高い確率で裁判所には不利な心証を抱かれることは、法務担当者であれば、資格の有無は別にして、想像するに難くはないのではなかろうか。そういう「外」からの視点で、今目の前にある事態がどう見えるかということに思いを馳せ、こうした「隠蔽」は止める必要がある、と考えることが、こうした状況下においては、法務担当者の職責として求められていたのではないかと考える。「空気」に呑まれてしまった結果、それが果たせなかったのだとすると極めて残念な話である。

 

もう一つは、仮に上記のように「空気」に反する行為をして、自社内での立場が微妙になって、居づらくなったとしても、「外」に活路を求めることは、特に法務の職種であれば、それほど難しくないこと。法務職への需要は一定程度あり、それが急に減ることが考えにくいことからすれば、「外」に活路を求めることは不可能な話ではなく、この場に居続けなければ困るということでもない*2。だからこそ、この場の「空気」に呑まれる必要はない、と踏ん切りをつけられるようになることが重要と感じる*3。先の必要性に対する許容性、というところになろうか。そういうことを意識することができるようになる意味で、「外」に接し続けることには意味があると感じる。

いずれにしても、この件のような、法務担当者にとって不幸な事態が繰り返されることのないよう、「外」を意識し続けることが重要と考えるし、その点は肝に銘じておきたい。

*1:管理職であれば部下がこのような事態の当事者とならないような「仕組み」を作ることも重要であることはいうまでもない。その場合、適宜自身が「悪役」になることも、事業部門の足を遠ざけない意味で重要になることもあるだろう。

*2:転職活動は、これまでしてきたことが、募集先でどう生きるか、をプレゼンするという視点で考えれば、やり様は出てくるのではないかと思うので、殊更に転職目当てで、履歴書に書けることばかりに囚われすぎないほうが良いのではないかとも感じるのだが、どうだろうか...。

*3:特に、地方の工場とかにいると、人間関係が閉じやすく、他の場所が見えづらくなって、「空気」に呑まれやすくなるのではないかとも感じるのだが、どうだろうか。