民主主義とは何か (講談社現代新書) / 宇野 重規 (著)

もともと学部での専攻?は政治系だったこともあり、買ってはいたのだが、読むのが遅くなり、今更ではあるが一通り目を通したので、感想をメモ。民主主義の歴史を振り返るもので、民主主義について考えるうえでは読んでおいて損のない一冊ではないかと思う。

 

著者は、日本学術会議の新会員の推薦はあったものの、某政権により任命はされなかった6名の学者のうちの一人。政治思想史・政治哲学専攻で、僕がが政治学史(西洋政治思想史)の授業を受けた佐々木毅先生の門下らしい。専門がアレクシ・ド・トクヴィルということもあって、トクヴィルについての記載がやや厚く感じるものの、本書はギリシャ以来の民主主義の歴史を振り返りつつ、民主主義の基本を押さえる、というものになっている。

 

大学の時に政治学史の授業でトクヴィルのあたりまでカバーされていたのか記憶がないのだが*1、前近代については、あの授業でそういう話聞いたような気がするな、という感じだった。もっとも、民主主義との関連で重要そうなところだけを選んでいる感じで、西洋政治思想史を概観するという感じではないのだが。

 

個人的には、トクヴィルの「アメリカのデモクラシー」あたりから、民主主義(その意味するところが何であれ)に対するそれまでのマイナスの評価が覆るようになった部分が特に興味深かった。民主主義は、古代では必ずしも積極的な評価がされていなかったのに*2、気が付くとその評価が覆っていて、その転換点がどこかというのは必ずしも明確に理解していなかったから。

 

最後の方で、一通りのおさらいとして、取り上げた思想の持つ現代的な意義にも触れた後で近代日本の状況と、一番最後に今後の展望についても触れられている。個人的には著者がいうほど希望を感じないのだが、著者が「公開による透明性」、「参加を通じての当事者意識」、「判断に伴う責任」の3つを重視している点には、納得するものを感じる。いずれについても現下の本邦では足りている気がしないし、それは政権側のみならず、我々有権者の側についても一定程度(特に後ろの2つ)当てはまる気がする。

 

全体が新書版で270頁余というコンパクトな分量に収められているので、個々の叙述については簡潔すぎるかもしれないが、専門家でない一般人が読むにはお手頃な範囲に収まっているので、民主主義について考える上でのfood for thought(思考の糧、というところだろうか)として目を通しておいて損はないと思う。

*1:不勉強故に授業に出ていなかった、または、授業で学んだことを忘れ去ってしまった可能性があることは言うまでもない。

*2:人類史上民主主義が肯定的に評価されている期間の方が短いという点についての指摘も重要と感じる。