オーラルヒストリー企業法務 / 平田 政和 (著)

出たときには、何だかいいかなと思ってスルーしたのだが、今回のBLJのブックガイドで見て気になったので、購入したもの。

 

オーラルヒストリーというのが表現として妥当なのかはさておき、東レの法務のトップなどを歴任した方が広義の企業法務分野に45年にわたり関与された経験を回顧するもので、商事法務ポータルのタイムラインに連載したものがまとめられている。一回当たりの分量が短く、読みやすい。

 

新入社員からシニア層まで4つの段階にわけ、それぞれに対してのアドバイスが書かれているともに、最後にスランプ対応法のエッセイが付されている。経験に基づくアドバイスについては、第一線から離れられてから時間が一定の時間が経過していることもあり、一部の内容については、現状に応じた更新が必要と思われるが、今なお示唆に富む内容を含んでいると感じた*1。通して読み取れるのは、仕事に対する誠実さ、基礎的なところの徹底の重要性。言うほど簡単なことではないと実感することが多いので、襟を正して読まなければならないという気がした。

 

いくつか個人的に特に印象的だったところを箇条書きでメモしてみる。

  • リタイヤ後は、懇親会などには出向くが、社屋にはいかず、相談には原則メールなどで対応する、企業法務についての自身の賞味期限が過ぎ、消費期限が近づきつつあると判断したところで、企業法務系の書籍雑誌をほとんど処分するなどの出処進退についての自己規律の明確さに感動した。
  • 1年間に500時間勉強せよ、それは土日の時間を充てよというアドバイス。なぜ土日か、なぜ500時間かというところも含めて、企業法務担当者の生態への理解の深さがうかがわれる。
  • 契約書の本質について、プロジェクト推進のシナリオ、事務処理の規範、離婚文書という3つの視点の提示。個人的には前2者の方が3番目よりも重要だと感じているが、それでも3つの視点は重要と感じた。

 

 

*1:BLJの最終号でのブックガイドでの本書についてのコメントで"結局のところ、こうした議論に新しく見えるところがあったとしても、先人がこれまで経験して考え、実践する中で育まれた問題意識が多少違う形をとって表れてきたものにすぎないということなのでしょう"とあったのは正にその通りと感じる。