2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義 (星海社新書)/瀧本 哲史 (著)

 

一通り目を通したので感想をメモ。

早世した著者が、東大で10代、20代向けに行った講演録をまとめたもの*1話し言葉を書き起こしたもののようであり、語り口から氏の熱量も伝わってくるようで、読みやすく、引き込まれるように一気に読むことができた。内容自体は、これまでの氏の著書のエッセンスのようにも見え、氏の著作への入り口という読み方も可能であろう。題名にあるように、氏の講演(というか、扇動とでもいうべきか)での内容の「答え合わせ」の時期に既になっているが、僕には判断しづらいものの、今なお、10代、20代の読者にとっては読むべきものがあるものと信じる。

 

…というようなことは、多くの人が言うのではなかろうか。きっと。

 

同世代というか、接点はほとんどなかったものの、大学同期の人間として敢えて付け加えるならば、氏は、自分の言葉の届く範囲をよく理解して、そこに向かって言葉を重ねた。その言葉に影響を受けた人も少なくないのだろう。

しかしながら、他方で、彼の言葉の届く範囲は、それほど広くなかったのではなかろうか。言葉を選ばずにいえば、下の世代を教えるという意味では、彼は「進学校の高校教師の超上位互換」でしかなかった*2ということは認識しておくべきだろう*3。もちろん、それは、氏の非凡な能力故に可能なことといえ、ものすごいことであることは言うまでもなく、こちらには到底できるはずもないのだから、僭越にもほどがあるのだが。

 

最後に、こちらと故人の接点について若干メモさせてもらいたい。大学時代から、氏は、その能力故に抜きんでて目立っていたから、あの学部の同期であれば氏を知らない人はいなかっただろう。こちらは法律嫌い(政治系だったから法学部でもそういうことはあり得るわけだ)の並以下の学生で、当時の氏がこちらを認識したことはないはずだったが、年月を経て、SNS上で挨拶をしてからは、時折、様々なことを直接教えてくれた。接点のあった人間に対して示される彼の親切さのおすそ分けをいただいた感がある。また、彼が最後に立ち上げたところが、企業法務についての組織ということもあって、直接ご案内もいただいた*4

それと、彼が最後に公の場に顔を出したと思われる対談は、見にいった。対談相手も同期で、僕は彼女と予備校で一緒だったこともあり、二人の顔を見ようと思ったのと、案内のビラをみたときに、写真に写っていた故人が、一時期よりも著しく痩せていて(学生時代の風貌がよみがえる感じだった)、このトシでここまで痩せるというのは、ただ事ではないと、嫌な予感もあって、足を運んだのだった。対談は、実に見ごたえのあるものだった。どさくさに紛れて対談の最後に質問もさせてもらった。こちらの質問への返し方も実に「らしい」ものだった。

 

…益体もない話ばかりで恐縮だが、いずれにしても、早世であることは事実であり、あららめて故人の冥福を祈る次第。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:本書の刊行に際して、御父上のコメントが公開され、そこで初めて生年とかが明らかになった。ただ、野暮を承知でいえば、90年に法学部入学は正確な表現はなく、90年教養学部文科一類入学、92年法学部進学、ではあるのだが。

*2:裏を返せば「底辺校」の教師たりえない、ということ。

*3:僕ごときがこの種の言辞を弄する資格があるとは思ってはいない。ただ、他方で、故人の追悼の記事(内容は故人の業績・能力からすれば相応しいものであったとは思うが)や本書の刊行により、故人が不当に「神格化」されないかと懸念もする。その種の事象は、本書で故人が説くことと逆行するにも、拘わらず。なので、敢えて、この種の言説は述べておきたいところ。

*4:もっとも、こちらが諸々の面で不調な時期だったこともあり、十分な反応ができなかったことが、今となっては惜しまれる。