さようなら坪内祐三 ー本の雑誌 2020年4月号ー

こちらのエントリの続き。特集に一通り目を通したので感想を備忘のためにメモ。

 

故人については、評論家、ということになるのだろう。個人的には日記もの(「酒日記」「三茶日記」等)と「東京」くらいしか読んだことはないのだが、日記ものから、雑誌や古書の一次情報を駆使して、膨大な評論類を書く反面で、呑みっぷりも尋常ではない、という印象だった。この点は、特集冒頭にある故人の書斎の写真で、膨大な書籍が秩序だった置かれているところからも確認できる*1。また、歳は一回り上ではあるが、同じく世田谷生まれで、こちらの父方の祖父母のいた三軒茶屋を拠点としていたことから、親近感を抱く反面(そうした意味で、未完となった玉電物語が気になる…。)、拘りどころが他人にわかりづらく、よく怒っているという印象もあり、ご本人にお目にかかったことはなかったが、勝手に近寄りがたくも感じていた。

 

本特集では、故人の業績を振り返るとともに、故人と接点のあった方々(流石に前妻の神蔵美子さんのコメントはなかったが…)の回想コメントなどが載せられている。日記もので言及のあった方も多く、なるほどという人選だった*2

 

坪内さんの身体の中に膨大に溜め込まれた生きた記憶は、デジタル万能な時代に対峙しうる坪内さんしかもっていない大きな武器でした。きっとこのまま意地悪爺さんとなり、旋毛曲がりの「故老」として、一部で愛され、一部でうるさがられけむたがられて生き続けると思い込んでいました。

  平山周吉「同時代史を書き続けた人」より

自分の表現力では表現しきれないので、特集の中で、自分の気持ちに合った表現を引用してみる。 これまでは良い読者ではなかったけど、もっと書いていてほしかったという気がしてならない。物分かりが良くなりすぎた感のある昨今、氏のような方がいてくれたらと思うことが今後ますます増えるのだろう*3

 

ともあれ、故人をしのんで、故人が愛した飲み屋の一つにでも行ってみたいところ。特集では、接点のあった方々が故人に教わった店として、何軒か紹介されているので、それを頼りにしてみたい。

 

 

*1:個人的には、大好きな旺文社文庫の百閒全集が本棚の手前に置かれていたことが印象的である。

*2:斎藤緑雨になれたはずなのに…という某学者の方のコメントについては、違和感が残ったが…。故人は、もっと編集者的だったように思われたので。

*3:その反面で、醜悪さを増す諸々にさらされなかったことはよかったのではないか、という気もしないでもないのだが。