約款の基本と実践 / 嶋寺 基 (著), 細川 慈子 (著), 小林 直弥 (著)

漸く一通り目を通したので感想をメモ。全体の感想としては、約款について何らかの業務があるのであれば、手元に置くべき一冊というところ。

 

帯に「約款をめぐる悩ましい問題に対して実務担当者目線でわかりやすく解説」とあるが、確かにそういう感じの本。全体は2部構成で、前半では、約款をめぐる法規制等について解説がある。改正後の民法消費者契約法の規制などに重点が置かれて解説がある。後半では、より実務的に約款の作成・運用における問題となり得る点について解説がある。文章も平易で、読みやすく、分量もコンパクトなので、通読も容易。

 

個人的に良いと思ったのは、まずは、条文・官庁の指導や判例・裁判例*1に基づき、確実に言える範囲のことに解説を留めている(その意味では、リスクを取って踏み込んだ解説をしていない分、歯切れの悪さを感じるかもしれないが)点。約款のように広範な相手に対し画一的に適用されるような場合には、そういう間合いの取り方が結局は無難なのだろうと思う。出たばかりの本ということもあり、この本にこう書いてあるというだけでは、説得力を相手に与えられるかというと心もとないところが残ると思うので。

 

もう一つ良いと思ったのは、条文などをきちんと本の中で引いている点。いちいち六法とかを参照しなくても、この本一冊だけで完結しているのは、他にも参照しなければならない資料が多くなると思われる、約款とかの作成・維持管理作業をするうえでは、便利だと思う。

 

しいて気になった点をあげれば、検索の利便性を考えると、判例・裁判例、または、用語についての索引が欲しかったところくらい。

 

いずれにしても、約款の作成、維持管理をするうえでは、「定型約款の実務」とともに手元に置くべき一冊と感じた次第。

*1:保険系の話が多いが、それ以外の事例もちゃんと拾っている。主著者が保険系で有名な先生だから保険約款の話に終始するのではないか、というこちらの懸念は杞憂に終わった。