これで分かる意匠(デザイン)の戦略実務 / 藤本 昇 (監修)

先般のエントリでも読みたい旨メモしていたが、一通り目を通したので感想をメモ。

 

アマゾンでの紹介を見ると、次の6点が本書の特色とのこと。

(1)意匠に関する裁判例豊富、(2)実務経験豊富な意匠弁理士執筆、(3)意匠の類否判断手法を詳細に解説、(4)意匠の調査に関するノウハウ開示、(5)海外主要国の意匠制度解説、(6)平成31年の意匠法改正項目に言及。

確かにそんな感じかもしれない。

 

これらとは別にこちらが印象に残ったのは次の2つ。

 

まず、意匠法だけに焦点を当てた本というよりも、意匠法及び関連する知的財産法も含めて、自分の権利を如何に確保し、守るか、というところにも一定の力点をおいているという印象だった。意匠法そのものについて、ある程度理解していることが前提という感もあるので、そこは注意が必要という気がした*1。ともあれ、特許権実用新案権や、商標権、著作権との保護範囲の違いを踏まえて、どのように権利を確保するかというところの分析が、個人的には興味深かった。ある種の権利ミックス*2を考えることの重要性を再認識したというところか。

他方で、これは、上記の各権利について、弁理士が専門分化しがちにも見えるところでは、必ずしも容易とは限らないので、注意が必要な気がした。これは、依頼する側で管理すべき話ということになるのだろう。

 

次に印象に残ったのは、意匠の類比判断の難しさ。判断基準の解説については、実例を図面などの資料も適示しつつなされていて、記載自体がわかりにくいということはない*3のだけど、判断が難しいという気がした。実際の事例を、そなりの件数見てみないとそう簡単にはわからないということなのだろう。

 

いずれにしても、意匠法の本は、それほど多くは出ていないこともあって、実務をする方にとっては、手ごろな分量ということもあって、座右においておいて損のない一冊になっているのではないかと感じた。BLJの座談会でも指摘のあったように、今般の改正が完了した後適当なタイミングで、改正後の実務に基づき改訂版が出ることを期待したいと思う。

*1:こちらはそこが怪しいので、読むのに時間がかかったのだが。

*2:ここでは、時間軸を考えないミックスなので、商品役務のライフサイクルまで考える(田村教授の従前の講演会で指摘があったIP Channelingのようなものになろう。)とさらに複雑な管理が必要になるものと考える。

*3:一部本来であれば、資料がカラーで表示されるべきところが白黒表示だったようで、よくわからなかったところがあった。このあたりは、適宜の方法で見直しがあるとよいのではないかと感じた。