AIをはじめとする最近の技術革新が、法律との関係でどういう事態をもたらしているのか、という点についての概観が個人的には有用だった。お手頃な分量にまとめられているので、そういう点を見るだけでも読む価値は十分にあるだろう。もっとも、陳腐化の速さを考えると、読むならお早めに、というところだろうけど*1。
他方で、いくつか気になったこともあったので、箇条書きでメモしてみる。直感をメモしたものでしかないのだけど。
- 著者が商事系の学者ということもあって、一連の技術革新がもたらす憲法的な問題についての言及は控えめと感じた。ちょっと残念な気もしたが、専門家ら遠すぎるということなのかもしれない*2。
- 上記の点とも関係するのかもしれないけど、技術革新から生じる弊害への目配りはあるものの、なんとなく総じて技術革新に対して楽観的すぎないかという印象が残った。こちらの感じ方の問題かもしれないけど。
- 「法」が「コード」(それぞれの内容は本著で確認されたし)に置き換わるという議論については、制定法の民主的正統性という側面が軽視されすぎていないかという気がした。
追記)トラックバックではないが、chihiroさんも同じ本を読まれていたようで、次のようなコメントをいただいた。
そもそも「民主的正統性」の背後には「自律した個人」の擬制があるように感じられてならないのです。そんなにみんな自律して意思決定なんてできまい、という前向きな諦念が私の中にあります。しかし意思決定ができないからといって個々人が尊重されえないというのは肯んじることができません。自律が所与でないとしても、ひとは個々に人として尊重され得る必要があると思います。
言わんとするところはわかるのだけど、その「諦念」が怖いなと感じるところ。ある種のパターナリズムの濫用とでもいうべき独裁に通じる危険があるような気がするので。そこがなし崩しになると、個人としての尊重も危ぶまれるのではないかと懸念するのでありました。「自立した個人」が擬制というべきというのは適切な評価だとは思うけど、そこにこだわることには今なおそれ相応の意義があると思うのでありました。