改正民法対応 はじめてでもわかる 売買契約書~図解とチェックリストで抜け漏れ防止/滝 琢磨 (著), 菅野 邑斗 (著)

司法試験受験の頃からフォローしているかっぱちゃん先生(@kappa0909*1が共著者ということもあって、購入してみた本。弁護士・法務担当者にとっては、手元においておいて損のない一冊になっていると感じた。

 

 

この本について、かっぱちゃん先生が「はじめてでもわかる売買契約書作成秘話」として、いくつか呟かれている。例えば次の呟き。

とはいえ、個人的には、書かれているような用途に使うには厳しいかなという気がした。現場サイド、特に、営業マンに読んでもらうには、おそらく、専門用語を説明なしに使いすぎだし、法律書としては薄めにまとまっているけど(専門用語の説明を省略したことがが分量を減らすのには有用だったのだろうが)、法律に関心がなければ、これでも分厚すぎるという印象を与えるのではないかと感じる。関心のないことについての本を読むのは苦痛感は高いかもしれない。なので、法務担当者が読むように渡しても、渡された側としては、戸惑うか手に取らずに終わるかどちらかではないかと感じる*2

 

寧ろ、この本の使い方という意味では、法務担当者による営業マン向けの売買契約についての研修向きかなと。営業マンが自分自身で読むにはシンドイかなと思うものの、法務担当者が解説しながら、読んでいくことはできる分量と難易度にはなっていると思うし、営業マンが、債権法改正後の民法を前提として、売買契約において、最低限抑えるべきところ*3を簡潔に抑えてくれているので。

 

法務担当者・弁護士自身にとっても、債権法改正が後回しになっているような場合*4で、売買契約のひな型などへの対応を要する場合には、この本をガイドとして参考にすることも可能なのではなかろうか。記載について、細かく出典が付されているのは、こういう用途にはふさわしいだろう*5

 

もう一つ使い道という意味では、法務担当者初心者、への教育用のテキストという意味でも、有用なのではないかと思う。ドラフティングについて、一つのひな型を、一方当事者より、他方当事者よりに直していく実例を、修正の根拠を示したうえで、全文示している点が特に有用という気がした。一つの条項も、観点が異なると、案文はまったく別のものになり得ること、そしてそれ故に、どういう観点からドラフトを見るべきかが重要、ということを直截に示しているから。この点は、僕自身が、法務担当者初心者の頃に、そのあたりが十分把握できていなかったからそう思うのかもしれないが…。加えて、チェックリストは、見落としを防ぐ意味で有用なことはいうまでもない。特に初心者にとっては、見落としをする危険は相対的に高いだろうから…。

*1:手が回らかったので、「合格思考」には手が出なかったが…

*2:話はそれるが、買主から見たポイントを記載した第1編、売主から見たポイントを記した第2編、どちらか見てもポイントとなる第3編、という構成も、営業マンに何の注釈もつけずに渡すと、第1編または第2編だけしか読まないという危険を招かないか気になった。売主側という意味では、1,3編を読むべし(買主側であれば、2,3編)、という注釈が、「はしがき」あたりに必要ではなかったか。

*3:ある程度企業法務担当者としての経験がある者の目で見ると、他に抑えておきたい箇所は当然あるのだけど、営業マンが最低限抑えるべきところという意味では、記載のあたりになるのだろうと思うので。

*4:その場合に、短兵急に対応をすべきかどうかについては、BLJ12月号の藤野論文を参照。

*5:その反面で、営業マン向けの本としては、注釈の多さは敷居を高く見せかねないという意味ではマイナスだったのではないかと思う