元商社ベテラン法務マンが書いた 英文契約書ハンドブック / 宮田 正樹 (著)

版元の方からいただいていたものの、長らく積読だったが(申し訳ありません>該当者の方)、一通り目を通したので感想をメモ。商社で営業マンから法務に転じ、法務経験後に事業会社の法務に転じられたベテランの著者の手によるもので、手元にあれば参考になる一冊、というところか。

 

 

本書は大きく分けて3部からなり、第1部では、英文契約の総論的な解説で、よくつかわれる表現とかいわゆる一般条項の解説が手短になされている。個人的には、間違えやすい、時についての表現や、以上・超えて・以下・未満の使い分けを表で示している部分の解説が、丁寧でわかりやすく感じた。

 

第2部では、契約書の文案を解説している。NDA・LOIから始まり、売買契約書、販売特約店契約書、ライセンス契約書(商標、特許)、及び業務委託契約書と、全体でp350程度で触れるには相当盛り沢山。ある程度幅広く文例に接することができるのは有用だろう。他方で、それぞれの文案をみると、ベストと考える文案というよりは、ありがちなものを載せているとは思うが*1、個別の条項自体にも疑義が残るものがあって、それらの解説はもう少しほしかった。著者であればもっと色々触れられるはずなので。訳文についても、あったりなかったりして、紙幅の制約ゆえに重要度の高いところに絞ったということだろうと推測はできるが、さじ加減が難しいところ。

 

第3部では周辺知識として、インコタームズ、CISG、及び、貿易実務についての解説がある。

インコタームズについては、使うのであれば、ある程度の解説が手元にあったほうがいいし、できればICCの公式の解説が欲しいところだが、それがないときにはあると便利だと思う。

CISGについても、個人的には、原則適用除外派だけど*2、何らかの事情で適用が必要になった時のために、この程度の解説は手元にあって損はないと考える。

貿易実務についても、この手の書物で触れられていることは少ないように思うが、形のあるモノの取引においては、契約書上関係があるかないかは別にして、リスク管理という側面から、法務担当者も、実務への関与の有無は別にして、把握しておくべきと思うので、コンパクトな解説は有用と感じた。

*1:その旨注記もされている

*2:先進国の法を準拠法にするのだればそれで足りるだろうし、日本についてみれば、まだ裁判例が少ないうえ、自力執行力のある条約で英語のテキストを、裁判所が少なくとも外形上は直接扱うことが求められる形になるものの、そのあたりの裁判所の能力に不安を覚えるので、除外が無難と考える