例によって,つぶやいたことなどを整理した上でメモ。某芸能事務所の某問題について思ったことではあるのだが…。
諾成契約が認められている類型*1であれば,契約書の不存在それ自体は必ずしもおかしな話ではない。契約書(電磁的形態含め)の存否はあくまでも契約の存在及びその内容の立証の問題でしかないから,他の手段で契約関係の存在及びその内容の立証が十分可能ということであれば*2,裁判手続との関係でも問題は生じないかもしれないし,そもそも争いが生じなければ契約関係の有無やその内容が問題となることはないかもしれない。
問題になるのは,契約内容があいまいなままになりかねず,交渉上の優位性がある立場が自分に有利な形で交渉を進める結果になるからであろう。優越的地位の濫用の問題になる可能性はあるとしても,その点が問題提起されなければ,その議論にもならず,優越的地位の濫用であるとされたがゆえに何かが起きるわけでもないことになる*3。また,仮に契約書を取り交わすとしても,交渉上の優位性がある側が自らに有利にまとめてしまったら,書面化することで,内容が確定してしまう(と認識される事も含め)以上,劣位におかれた当事者にとっては,契約書がないよりも事態が悪化する可能性もあるのではなかろうか。そういう意味では,書面化の不存在のみを問題にするのではなく,交渉力の不均衡に対する手当も必要なのかもしれない。団体交渉とかという議論もありうるのかもしれない*4。
こういうことを考えると,契約書が存在すればとりあえず大丈夫みたいな議論には違和感がある。契約書にまとめることで,不利になるのであれば,寧ろ曖昧なままにしておくという選択肢も考慮すべきという気がする。
もちろん,収益認識とか内部統制の観点から,不存在が許容されにくいという状況は有るのだろう。その場合でも,そういう要請と無理にまとめることによって生じる不利益とを比較衡量しないことを正当化するかどうかは疑問を覚える。*5。
*1:保証契約のようなものや,業法上の規制から書面性(電磁的形態のものも含む)を求められるものは除く,ということになろう。
*2:もちろん,そういう認識が妥当なのか,という議論は別に存在しうるだろう
*3:個人的には,ネットなどで流れてくる情報を見る限り,かの芸能事務所の件は,寧ろこちらの問題ではないかと感じるところ
*4:一部でそういうことをつぶやかれている方もおられたのを拝見した
*5:かようなことをつぶやいたら,某無双様から,次の呟き以下でエアリプをいただいた(こういう書き方をするとエアリプでも何でもなくなるが…)。ご指摘については,理解はするし,可能であれば書面化をしたほうが望ましいことは同意で,内規との整合性は,確かにご指摘のとおりかと。他方で,自社内の引き継ぎについては,自社内で文書で引き継ぎをしておけば足りるかもしれないと感じるところ。また,交渉力の面で将来の優位性の確保が予見できるときは,確かにご指摘のような対応もあり得るけど,そういう予見可能性がないときもあって,こちらが懸念するのは,寧ろそのような場合だったりするのでありました