事業の理解についての一つの案

インハウスな日々次のように書かれているのを見たので,エントリを書くかと思ってみた。

 

事業に近いところで仕事ができる。インハウスとして働く意義としてよく紹介される言葉ですが,契約書の審査をするにあたって事業を理解しろと言われても,具体的に何を聞けばいいのか。

 

「事業を理解する」ってどうやるのだろう?複数の企業で法務の仕事をしてきたものの,僕は,正直良くわかっていない。なんとなく,仕事をしながら徐々に理解していく感じだった。webサービス系とかあれば,一ユーザーとして自分で使ってみるというのは一つの方法だろうけど,常に有効な方法とは限らない。金額的に個人で買えるものではないとか,仮に買えたとしても個人ベースでは使いようのあるものではない*1とか,そういうことも往々にしてある。

 

 なので,あらためて,個々の事業について,法務担当者はどうやって理解するのがよいのか,切り口をいくつか考えてみた。ある程度は,前のところで先日書いたことと

dtk.doorblog.jp

と重なるのだけど…。現時点で思いつく切り口を,順不同でメモしてみる。何を持って「理解」とするのか,疑義もあるが,ご参考まで,というところ。相互に重なるものもあるが,そこはご容赦あれ。また,こちらの案でしかないので,過不足・誤解などについては,適宜の手段でお知らせください。

 

  • 自社製品・サービスの使われ方を把握する。サービス系で自分で使ってみるというのは,ここを把握するうえでは有用だろうと思う。ただ,自社が供給しているものが最終製品でない場合は,消費者の立場では直接把握するのが困難な場合も多いだろうから,別の手段でということになる。営業担当者とかに話を聴くことになるのだろう。自社製品・サービスについて,それらを含むサプライチェーンの川下の仕組みを把握するということになるのだろう。
  • 自社製品・サービスが如何にして供給されるか,作られ方を把握する。上記とは反対にサプライチェーンの川上の仕組みを把握するということになるのだろう。製造ラインのある現場であれば,ラインを見学させてもらうなどするのも,理解の助けになるはず。プログラミングとか開発を要する話であれば,その辺りの手法を訊くことになるのだろう。
  • 前記の作られ方を実現するために,何が必要で,それを如何に調達するかを把握する。サプライチェーンの川上の具体的な内容を把握することになるのだろうけれど,他社からの技術等の知財権の供与などがある場合は,そこを抑えることになるのだろうし,特に必須の材料・サービスなどがある場合には,その供給ルートの確保についても把握することになるのではなかろうか。
  • 規制のありようを理解する。事業全体またはその一部につき,適用される法規制にどういうものがあるか。免許許認可の絡む話であれば,実体法的側面と手続法的側面の双方の把握が必要になるだろう。そして,可能であれば,それらの規制の趣旨も把握したいところ。何らかの問題意識があって規制が存在することが多いと思われるので,その問題意識を把握しておくことは,有用なはず。また,不幸にして,違反事例が自社にあるのであれば,いかなる違反があり,それがどう現在是正されているのか把握することも,有用だろう。
  • 競合他社との立ち位置の違い,双方の強み弱み,関係性を把握する。自社の「売り」,それに対する競合他社の「売り」を把握するということも一つの理解の仕方になるのではないか。また,同業他社間での取り決めごとが仮にあるのであれば(知財のクロスライセンスやパテントプールみたいなものも含め)を理解しておくことも,重要だろう。
  • 自社の関連企業がある場合に相互の関係を把握する。大企業で,関連企業に周辺業務を下請けさせているような場合は,その関係(OBの受け皿になっているようなケースが考えられる),業務内容を把握しておくことも,有用な場合があると思う。
  • 自社でその事業をしている経緯を把握する。歴史的経緯も把握しておいて損はない。
  • 自社の事業部門の組織を把握する。事業をどのように遂行するかを踏まえて自社の組織が作られているのが通常なので,組織のあり方から事業を理解するということもありうるだろう。
  • 顧客を把握する。製品・サービスの使われ方とは重なる部分もあるが,それ以外の要素もある。顧客との間の取引履歴やトラブルの履歴,出現頻度,傾向を把握することも,事業のおかれている状況などを理解することに資するのではないか。
  • トラブル事例を理解する。自社及び同業他社のドラブル事例から,どういうところでどういうトラブルが生じやすいか,という形で事業を理解することも,法務の立場では有用だろう。
  • 約款を理解する。最後に自社の約款があればそれを読むのも,重要。トラブル事例への対応の中での教訓が自社の約款に活きているということもあるから。また,業界標準約款があれば,それと比較して,カバーされている項目,されていない項目,カバーの仕方に差異がある場合に,それぞれの理由を考えることで,自社の事業のあり方の特殊性に気づくヒントになるかもしれない。

 

とりとめなくあげてみたが,どんなものだろうか…。

 

*1:僕が勤務していた部品メーカーとか素材メーカーだとそういうことになる